畳は、日本の伝統的な住空間に欠かせない存在として、現代の人々に好まれています。一度は、「畳に寝転がって、のんびり心地よく過ごしたい」と考えたことがあるでしょう。
実は、畳はただ部屋に敷かれているだけではないため、敷き方の意味や歴史を知っておくとより畳の良さがわかります。また、やってはいけない敷き方もあるため、家を新築するときや和室をリフォームするときには、決まりを守った敷き方を選ぶことをおすすめします。
そこで本記事では、畳の敷き方から気を付けるべきポイント、豆知識まで幅広くご紹介します。畳のある生活をしたい人は、ぜひご覧ください。
畳の敷き方には決まりがある?敷き方の種類
畳の敷き方には、「祝儀敷き」と「不祝儀敷き」があります。では、この2つの敷き方の、どちらにすればよいのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
祝儀敷き(しゅくぎしき)
「祝儀敷き」は、合わせ目が十字にならない畳の敷き方のことです。「祝儀」とは、お祝い事を意味し、縁起が良いとされてきた敷き方です。「縁敷き(えんじき)」とも呼ばれます。かつて、日本では、自宅で祝いの行事を行うのが一般的でした。畳は敷き替えができることから、結婚式や命名式などお祝いの行事のときには、祝儀敷きに敷き替えて使っていたそうです。現在は、畳を敷き替える習慣はなくなったため、通年で祝儀敷きが採用されるようになったと言われます。
不祝儀敷き(ぶしゅくぎしき)
畳を一方向に向けて敷く敷き方を「不祝儀敷き」と呼びます。畳の合わせ目が井戸の井のような形になることから、「四ツ井敷き」とも呼ばれることがあります。不祝儀敷きは、葬儀などで使われていた敷き方で、不吉とされています。
祝義敷きと同様に、かつて日本では家族が亡くなったときの葬儀を自宅で行うのが一般的で、葬式のときには不祝儀敷きに畳を敷き替える習慣があったためです。一方で、神社や寺院では、不祝儀敷きが用いられていることがあります。神社や寺院は、葬儀が行われるためです。
また、何十畳も畳が敷かれている旅館の大広間でも、不祝儀敷きとなっていることが少なくありません。これは、畳を同じ向きに敷くことで見た目が整い、人が上を歩くことで畳の摩耗を抑える効果があるためです。
また、一方向で敷かれていると畳の目も同じ方向になるため掃除がしやすく、畳の敷き替えといったメンテナンスもしやすいことも理由の1つです。
畳の敷き方のその他の注意点
祝儀敷きと不祝儀敷き以外の、畳の敷き方の注意点を解説します。
- 床の間がある場合は床挿しを避ける
- 和室の入り口の畳は目が進行方向になるように敷く
- 四畳半の部屋は切腹の間にならないようにする
- 鬼門には半畳を敷かない
それぞれについて、詳しく解見ていきましょう。
床の間がある場合は床挿しを避ける
床の間のある和室で畳を配置する場合は、床の間のすぐ前の畳は、床の間と同じ方向に畳を敷きます。床の間とは、和室の一部にある空間のことで、畳よりも一段高くなっており、床柱や床框で彩られている部分のことです。和室では、掛け軸や生花が飾られる場所で、和室の中でも格式の高い場所とされています。
反対に、床の間に対して畳の縁が直角になる敷き方を「床挿し」と言い、避けたほうがよいとされています。これは、来客を和室でもてなすときにお客様が畳の縁に座る位置になってしまうためです。和室では、床の間の前の位置は、上座にあたります。日本では、客間には畳が用いられていたため、細かい部分でもお客様をもてなすことを意識していたことが分かりますね。
なお、床挿しは、畳の敷き方だけを気をつけておけばよいわけではありません。竿縁天井という和室によくみられる天井を作るときにも、竿の部分が床の間に垂直になっていると、竿縁が床の間に向かってしまうため、不吉とされています。
また、床の間の向きにも決まりがあり、北を背にした南向き、もしくは東向きがよいとされています。また、一番良い部屋につけ、風通しや採光が取れるように作るのが一般的です。和室では、お客様を迎える一番良い部屋につけるのがよいとされているためです。
ご自宅に和室を作るときや、和室をリフォームするときには、意図せず不吉な仕様を選んでいないか、気を配っておくとよいでしょう。
和室の入り口の畳は目が進行方向になるように敷く
畳は、部屋の入り口の畳は、畳の目が歩く方向になるように敷くのがおすすめです。部屋に入る引き戸や襖と、並行になるように敷きましょう。
例えば、8畳の部屋で畳を配置するときには、畳の長辺が部屋の周囲に沿う形で周りを囲むと、入口と並行になります。
このように配置すると、畳の目と人の歩行方向が一致します。そのため、畳表と足裏の接触による摩耗を最小限に抑えることができます。畳を長持ちさせる効果も期待できるため、おすすめの敷き方です。
四畳半の部屋は切腹の間にならないようにする
四畳半の和室で畳を敷くときには、部屋の真ん中に半畳を置くのが一般的ですが、畳の敷き方には注意が必要です。中央に半畳を置く場合、上からみたときに、右回りに並ぶようにしておきましょう。
反対に、半畳のまわりを左回りに敷く方法は「切腹の間」と称され、不吉な敷き方とされています。切腹の間の敷き方では、半畳を真ん中にして、畳が卍形に配置されます。
切腹の間と呼ばれる由来は、武士が切腹を行うときにこの敷き方を利用していたためと言われます。切腹の間では、切腹を行った武士を中央の半畳に安置していたそうです。後ほど、中央の半畳だけを取り替えることで、部屋を元の状態に整えやすくしていたと言われています。
鬼門には半畳を敷かない
四畳半のように半畳を使う和室で畳を敷く場合で、半畳を中心に敷かない場合は、半畳を配置する方角に注意が必要です。半畳が「鬼門(北東)」の方向に来るような敷き方は避けたほうがよいとされるためです。
鬼門は、鬼の出入りする門とされ、半畳の畳は欠けを意味することから、鬼門に欠けを配置すると大凶になると言われています。新しい家を建てるときやリフォームするときには、事前に鬼門の方角を知っておくと、和室を設計するときに役立ちます。
なお、住宅の設計では、鬼門と裏鬼門(鬼門の反対側、南西側)玄関や水回りがないほうがよいとされています。しかし、鬼門を考慮したくても、どうしても半畳がくる、玄関や水回りがきてしまうということがあるでしょう。その場合は、盛り塩やヒイラギなどの魔除け効果のある植物を置いたり、常に清潔にしておいたりするなどの対処法があるため、試してみてください。
畳の敷き方の豆知識
畳の敷き方の、ちょっとしたコツを押さえておくと畳を入れ替えるときにも役立ちます。ここでは、以下2つの畳の敷き方の豆知識を紹介します。
- 琉球畳は目が交互になるように敷く
- 茶室の敷き方は炉の切り方によって変わる
1つずつ、見ていきましょう。
琉球畳は目が交互になるように敷く
近年、琉球畳という半畳サイズの縁のない畳が人気です。また、さまざまな色の和紙や樹脂繊維で作られた畳表もあります。琉球畳や色付きの畳は、畳の目が市松模様になるように、交互の方向に向けて敷くのがおすすめです。市松模様に並ぶことから、市松敷きと呼ばれます。
畳の向きを交互にしておくことで、光が部屋に差し込んだときに反射して色が一枚ずつ異なり、綺麗な陰影が生まれます。また、色付きの畳は、目の方向を交互にすることで色味が微妙に違って見え、部屋のデザインが引き立つでしょう。
障子やカーテン越しに入ってきた光が畳に反射する様子や、扉を開けたときに目に入る畳は、和室ならではの柔らかな印象を与えます。畳の良さを引き立てるためにも、ぜひ取り入れてみてください。
また、フローリングの上などに敷く「置き畳」も、近年人気があります。その名の通り置くだけの畳で、特別な施工や採寸も必要ありません。使うときだけ床に敷き、使用しないときにはしまっておくこともできます。置き畳は、普通の畳とは違い軽量で薄く、半畳サイズの正方形をしています。
置き畳には敷き方のルールはありませんが、琉球畳と同様に市松敷きにしておくと、見栄えがよくなるためおすすめです。
茶室の畳の敷き方は炉の切り方によって変わる
茶室は、畳を敷くのが一般的ですが、畳の敷き方は炉の切り方によって変わります。一般的に、和室は床の間を中心に配置を考えていきますが、茶室では炉が中心となり、配置を考慮していきます。
和室では、亭主の位置(客から見て反対側)に平行に畳を配置することが望ましいとされています。畳が亭主のほうに向かっているような敷き方は、亭主が自害することを連想させるため、避けたほうが無難です。このように配置していくと、一般の和室で考えると床挿しとなるため縁起が良くないとされていますが、茶室の場合は、問題とされていません。
なお、茶室に用いられる畳は地域によって大きさが異なり、京間(縦95.5cm×横191cm)、関東間(縦87cm×横176cm)など、いくつかのサイズがあります。茶室を設計するときには、地域や流派によってさまざまな決まり事があることを、理解しておきましょう。
畳干しをするときには畳の裏に印をつけておく
畳干しをするために畳を上げたあと、どこにどの畳が入っていたのかわからなくなってしまうことがあります。そのため、畳を上げたときには、印や番号をつけておきましょう。
多くの場合、畳は和室の寸法を測って作られているため、以前と同じ敷き方をしなければぴったり合わないことも少なくありません。
簡単な図面を書いて、畳一枚一枚に対応する番号と向きを記載しておくのがおすすめです。なお、畳を敷くときも順番があります。畳は、壁際など周りから順番に敷いてください。
畳を、壁の方向に突き、ぴったりつけるように敷いていくのがポイントです。最後に内側の畳を入れるときに、2枚の畳があわさった山の部分を、上から押さえていきましょう。
まとめ
本記事では、畳の基本的な敷き方の決まりや、それにまつわる縁起の良し悪し、さらには日常生活での畳の取り扱い方など、さまざまな知識を深く紹介していきました。日本建築の代表的な建築材料と言える畳は、畳の敷き方にも文化的な意味が込められています。一つ一つの決まりや習慣を守っていくことが、私たちの生活を豊かにしていくことも理解しておきたいものです。
畳の配置には、祝儀敷きと不祝儀敷きという2つの敷き方があり、自宅の和室では祝儀敷きを選ぶことをおすすめします。また、床の間のある和室では、床の間とすぐ前の畳が平行になるように敷きましょう。和室やリビングの畳スペースに畳を配置するときには、敷き方を理解しておくことが大切です。
畳との関わり方を再確認し、心地よい畳のある生活を実現するための第一歩として、本記事で紹介した知識を活かしてみてください。日本の伝統を大切にした畳の文化を、これからも楽しみつつ継承していきましょう。